2025年大阪・関西万博で大阪府が児童・生徒を無料招待する事業について、大阪府教育庁は2024年5月24日、府内の学校への参加意向を尋ねたアンケート調査の集計結果を発表した。
同日までに回答を寄せた学校のうち、約4分の3が参加を希望したとされる。
無料招待事業
一方でアンケート内容を詳細にみると、ことはそう単純ではない様子。
大阪府は無料招待事業について、4歳児~18歳以下、約102万人を対象にすると想定している。うち、小学校・中学校・高校やそれに相当する課程に通う児童・生徒については、学校行事などの形で、学校単位での招待での来場を検討している。
大阪府教育庁は府内の学校に対して、参加意向を尋ねるアンケート調査を作成し、2024年5月末までに回答を返送するよう要請した。
しかし調査用紙での選択肢では、「学校関係の来場での参加を希望する」と「検討中・未定」の二択で、参加しないという選択肢はなかったと指摘されている。後日のキャンセルも可能だからという理由で、とりあえず「参加する」と返送する判断をした学校もあるという。
また「参加する」という返送をおこなっても、会場アクセスや会場の状況について、学校現場からは不安や懸念が出ている。
バスの問題
会場の大阪市の埋め立て地・夢洲へは、大阪府が借り上げた貸切バスが準備されているという。
その一方で、大阪府が確保したのは会期の半年間でのべ3000台、1日あたりだと大阪府全域で10台程度しか稼働しない計算になるともされている。そのため、希望する学校にバスが当たるのかどうかは極めて見通しが悪く、学校経費でバスを確保する場合も出てくる。折しも、バス運転手の「2024年問題」の影響で、バス運転手が不足することが見込まれている。大阪府の郊外地域の自治体でバス事業者に連絡して見積もりを取ると、児童1人あたり5000円~6000円程度という内容が出た。これでは、校外学習での額としては高額で、保護者負担を求めるのは難しい、市町村が予算を組んで補助などを支出するのも難しいと指摘された。
さらに、貸切バスに乗れても、駐車場から入場ゲートまでの間に距離があり、児童・生徒の移動に課題があると指摘されている。遠すぎて特に小学校低学年児童だと時間がかかる。日よけなどの熱中症などの対策は可能なのか。雨が降るととぬかるんで大きな水たまりができるような軟弱地盤の土地なので道路は舗装されているのか。身体障害などがあって車椅子を使用する児童・生徒の移動への不安。などの問題が指摘された。
またバス駐車場予定地周辺のエリアでは、メタンガスの発生・噴出の問題が指摘された。2024年3月には建設工事中に、噴出したメタンガスに引火して爆発する事故があったことも問題になっている。幸いにして当該爆発事件では、工事関係者には人的被害が生じなかったということだが、懸念材料となっている。
公共交通機関の問題
大阪地下鉄中央線が万博会場に延伸予定となっていることや、大阪市内の主要駅から会場までのシャトルバスが運行される予定になっていることなど、公共交通機関でのアクセスも可能だとされている。
しかし、公共交通機関でのアクセスについては、ラッシュ時と重なる可能性があるとも指摘され、引率体制に極めて難があり、負担が大きいのではないかとも指摘された。特に、無料招待での会場への入場時間指定との関係で、小学校低学年の児童がラッシュ時の混雑する満員電車に乗る可能性も生じるので、危険ではないかという指摘もされている。
暑さ対策
さらに、暑さ対策の問題も出ている。会期は2025年4月13日~10月13日の半年間だが、年度替わりや猛暑の時期・夏休みなどを避けることや、通常の年間行事計画などの関係で、5月から6月前半に学校関係の希望が集中し、混雑に拍車がかかることや、希望通りの日程をとれないことも想定される。
会期の大半の時期で、熱中症などの対策も検討していく必要がある。しかし日よけなどの場所が確保されているのかなどの不安は尽きない。
ほかにも、会場内に昼食をとれるような場所があるのかなどの課題も指摘されている。
関係者の反応
報道によると、「参加する」と返信した学校関係者は、マスコミ取材に対して「またとない機会なので、できれば連れて行きたい。一方で、交通アクセス面や、熱中症対策などには課題を感じている。情報を共有して安心させてほしい」という心情を述べているという。
一方で吉村洋文大阪府知事は2024年5月27日の記者会見で、「予想よりも多くの学校が希望している。世界の社会課題や価値観、歴史を学ぶ意義があると考える学校が多いということだと思う」と話したとされる。
吉村知事は同様の趣旨を、X(ツイッター)にも投稿した。
児童生徒の万博招待事業ですが、現時点で1280校から回答あり、75%に相当する950校もの学校から参加希望がありました。残り25%も未定・検討中です。家庭の事情等で万博に行けない子供達も含めて、多くの子供達に世界の最新技術、多様な価値観、文化に触れて欲しいと思います。https://t.co/lDajnQSTgx
— 吉村洋文(大阪府知事) (@hiroyoshimura) May 27, 2024
雑感
2025年大阪・関西万博そのものについては、多くの課題が指摘されている。個人的には、このような状況である限り強行するのは危険だと感じて、今回の万博のあり方自体に否定的であり、少なくとも「課題を解決しない限り、このままの状況で実施するのは難しい」と感じている。
来場者に危険や不安を生じさせるようなことは、避けなければならない。学校単位での無料招待についても、計画や構想が極めてずさんで、大阪府の児童・生徒や引率の教職員を危険と隣り合わせの状態に置き、保護者や市民・府民を不安に陥れる状況になってしまっている。これでは、少なくとも現状では、あえて無料招待を強行する必然性はないのではないかと感じる。