茨城県取手市立中学校で2015年、当時3年の女子生徒がいじめを苦にして自殺した事件に関連して、「自殺した生徒への不適切指導を指摘されて懲戒処分を受けたことは不当」として元担任教諭が茨城県を相手取り、懲戒処分取り消しを求めた訴訟で、東京高裁は2024年10月31日、一審水戸地裁判決を支持し、茨城県の控訴を棄却して懲戒処分取り消しを命じる判決を出した。
経過
当該いじめ自殺事件では、当時3年の女子生徒が同級生の女子生徒3人からいじめを受けたとされている問題である。
被害生徒は「休み時間に連れ回される」「不快なあだ名を付けられる」「体育のバスケットボールのグループ分けで、故意に外されるように仕向ける」「卒業アルバムに中傷的な文面を書き込まれる」などのいじめを受けていた。
生徒は2015年11月に自殺した。同級生の実名を挙げた上で「いじめられたくない」などと記したメモが見つかったという。
この事件では、取手市教育委員会が「いじめではない」と判断した。しかし、独自調査をしていじめの証言を得ていた遺族からの抗議を受け、文部科学省は取手市の対応を不適切だと指摘した。それらの経過で、本来ならば市教委が設置する第三者委員会は解散し、茨城県が調査委員会を設置するなどの経過をたどった。
茨城県は2019年3月、調査委員会の報告書を公表した。
- 取手市立中学校の生徒の自殺事案に係る調査結果について〔概要版〕 取手市立中学校の生徒の自殺事案に係る調査委員会 2019年3月20日
生徒へのいじめを認定し、またいじめに関連して、担任教諭が生徒への複数にわたる不適切な対応をして生徒を追い詰めたような形になったと指摘した。
それを受け、茨城県教育委員会は2019年7月、教諭を停職1ヶ月の懲戒処分にした。
一方で担任教諭は、「懲戒処分に該当するような言動はなく、処分は不当」と訴えたものである。調査委員会報告書で指摘された、教諭の言動に関する内容は、いずれも認定の根拠が曖昧などと訴えた。生徒へのいじめに気づけなかった点については申し訳なく思っているとした上で、教諭の言動がいじめを誘発したとする調査報告書の認定や、それに基づいておこなった県教委の処分は不当だと指摘した。
判決では、教諭の行為で生徒を追い詰めたと指摘した調査報告書の内容は、認定の根拠が曖昧だと指摘した。その上で、調査報告書を元におこなわれた懲戒処分も成り立たない。、教諭への処分は違法だと指摘した。
「被害生徒の卒業アルバムに、加害生徒が中傷文面を記載した」などのいじめについては、教諭は当時認識していなかった、同僚教員や学校からも被害生徒側からも全く情報もなかった、それらのことを考慮すると対応は困難だと判断した。このほか茨城県が「教諭の不適切指導」と指摘したものについても、不適切な点はなかったと判断した。
教諭本人は裁判には出廷できなかったというが、判決後の記者会見で、教諭の家族が「改めて亡くなった生徒のご冥福をお祈りします。主張が認められ安堵している。県や市は、判決を真摯に受け止めてほしい」との教諭のコメントを代読した。
雑感
この事件は、複雑な経過をたどっている。
当方としては、調査報告書や訴訟の内容を受けた報道を読んで、差し障りのない感想を書いているだけの立場ではある。当該案件の個別のことについての、調査委員会での認定、教諭の主張、判決の内容については、「そのような判断になったのか」ということしかいえず、それ以上踏み込んでコメントする立場ではない。
当該案件を越えた話として、いじめへの対応として、本人の受けた苦痛のみならず、周囲の対応についても、ていねいに見ていく必要があるということなのだろう。