埼玉県立所沢高校3年だった男子生徒が2004年5月26日、定期試験中にカンニングを疑われて教諭5人から事情聴取を受け、その直後に自殺した「指導死」事案。
経過
裁判で認定された事実関係は、以下の通りとなっている。
男子生徒は試験当日、1時限目に日本史、2時限目に物理、3時限目に英語ライティングの試験を受験した。物理の試験中、試験監督の教諭が、生徒の机の上に日本史のペーパーを見つけ、声をかけてペーパーを回収した。
同日午後0時頃から午後1時45分頃にかけて校内の視聴覚準備室で、計5人の教諭が生徒への事情聴取をおこなった。事情聴取をおこなった教諭の詳細は、以下のようになっている。
※教諭氏名(仮名)、(1)担当教科、(2)事件との関係、(3)事件以前の生徒との接点。の順
- Y1教諭 (1)理科(2)2時限目の物理の試験監督(3)特になし。
 - Y2教諭 (1)英語(2)1時限目の日本史の試験監督(3)生徒の2-3年時に授業担当。
 - Y3教諭 (1)英語(2)(3)学級担任。
 - Y4教諭 (1)理科(2)3年生徒指導係(3)生物の授業担当。
 - Y5教諭 (1)保健体育(2)3年生活指導係(3)特になし。
 
事情聴取の時間は連続105分(1時間45分)に及んだ。5人の教諭は途中の入退室による入れ代わりはあるが、うち計90分(1時間30分)を教諭4人以上で聴取をおこなっていた。一方で生徒にはトイレ休憩などは与えられなかった。
聴取では1時限目の日本史の試験でのカンニング行為の有無、2時限目の物理の試験で日本史のペーパーを見ていたことへの調査がおこなわれた。
日本史の試験については、カンニング行為は確認できなかった。また物理の試験中の行為については、生徒は「1時限目の日本史の内容を復習していた」などと答え、物理でのカンニング行為も確認されなかった。
生徒は同日夕方5時43分頃、母親の携帯電話に「迷惑かけてごめんね」などとするメールを送信し、埼玉県内のマンションから飛び降りた。同日午後8時8分に死亡が確認された。
民事訴訟
生徒の遺族は2006年6月15日、さいたま地裁に提訴した。
しかし、一審さいたま地裁では2008年7月30日、原告側の請求を棄却した。原告側は控訴したが、二審東京高裁では2009年7月30日、一審判決を支持して原告側の控訴を棄却した。
裁判の問題点
原告側主張では、「過剰ともいえるような指導で生徒に心理的圧力を与えて自殺に追い込んだ」という点を問題の本質だと位置づけていた。
しかし裁判ではその点については一審・二審とも触れず、学校側ですら認定できなかった「カンニングがあった」ということを前提に、「カンニングがあったから指導は当然」という結論を導いている。